戦技とブルー(その1、インメルマンターンとスプリットS)

|  ブルーインパルス雑学  |
 ブルーインパルスの前身は、航空自衛隊の「戦技研究班」でした。ブルーインパルスがアクロバットショウで行う課目は、戦闘機が空中戦で使う操縦技術(戦技)とどんな関係があるのでしょうか。
 アクロバット飛行は、航空法で曲技飛行として区別されています。ブルーインパルスのアクロバットショウは、戦闘機が空中戦で使うアクロバット飛行を、ショウ用に体系化したものなのです。
 戦闘機の機関砲や多くのミサイルは前方に位置する敵に対する攻撃力を有しています。戦闘機が空戦状態に入った場合、敵の後方に付ければ圧倒的に優位です。しかし、パイロット達は、簡単に後方を捕られないようにアクロバット飛行を繰り返します。その中で短時間、短距離で方向転換できることは、勝敗を分けるキーになります。
 ここでは基本的な方向転換の操縦法を2つ紹介しましょう。
 時は第一次世界大戦、戦闘機が全てプロペラ機だった頃、ドイツのエースパイロットのImmelmanさんは、敵と交差した後に急上昇して宙返り(ループ)を行い、180°方向転換を行う操縦法を生み出し、多くの戦果を上げました。その人の名前を取って、インメルマンターンと呼ばれています。水平飛行から操縦桿を引くと、飛行機はそれまでの慣性があるので円を描きながら上昇していきます。そして、機体が背面になる頂点近くで機体を1/2横回転(180°ロール)させて、水平飛行に戻すと方向転換(上昇反転)が完成します。この操縦法は、短時間に方向転換できるのがメリットです。しかし、物理学で言えば、速度エネルギーを位置エネルギーに転換しているので、方向転換後は、極端に速度が低下する事が難点です。エンジン出力が小さい場合は失速の危険性を伴いますし、方向転換後に敵に狙われる可能性がありました。
 インメルマンターンとは逆に、下向きにループして方向転換を行うのが、スプリットSです。こちらはアルファベットのSの文字に由来しています。水平飛行から1/2横回転して背面飛行になり、そのまま操縦桿を引いて、下向きに円を描いていきます。最下点では、機体は水平状態に戻って方向転換(反転降下)が終了します。この方法は、速度が低下しないので、次の攻撃に向けた動きを取れることがメリットです。また、敵に後方に付かれた場合の回避操縦の一つにもなり、相手より小回りできれば、立場を逆転することも可能になります。
 5番機が行う”バーチカルキューバン8”は、紹介した2つの操縦法を各2回ずつ連続して行っています。大空に描かれた8の字の裏には、このように戦技と密接に関係した操縦法が使われています。F-16CやF/A-18の機動飛行でもダブルインメルマンと呼ばれるアクロ飛行を行いますが、一回目のインメルマンターンの終了後に、速度を回復するために水平飛行を行っています。連続して行うブルーインパルスは、機体とエンジンが高次元でバランスされたT-4の性能の高さを私達に見せてくれているのです。また、”タッククロス”で交差した、5番6番のソロ機が反転して戻ってくる場合も、スプリットSで方向転換を行います。航空祭でのフライトでは、数多くの戦技を応用した操縦が行われています。会場上空を通過した機体を追っていると、様々な動きを見ることが出来るでしょう。

(補足)Immelmannさんが使用した当時の戦闘機のエンジン性能では上昇反転は無理で、斜め上昇からの反転(ウィングターン)だったとの諸説もあります。真偽は別にして、操縦法としては、上昇反転=インメルマンターンとの呼称が定着しています。

<Studio-T>